#36 by ritsuo / 2014.12.12
おじさんたち訴訟レポート

国立の切断は、「公序良俗に反しない」:東京高裁判決(その1)

東京高裁の再接続経費裁判控訴審でも、元市長・前市長が勝訴したことは速報しました。判決を読むと、再接続裁経費判の東京地裁判決に比べて、おじさんたち(原告住民)の「(過剰な)法治国家論」の主張をより明確に退けることで、「地域社会の政治的選択(自治)」の尊重に近づいてきているという印象です。速報でも紹介した「公序良俗に反しない」という裁判所の判断も、「切断の違法性」という前提の中で、「自治」の積極性・(ある種の)正当性を認める論拠として使われているように見えます。(⇒東京地裁判決関連記事

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再接続経費裁判東京高裁判決全文

高裁判決(裁判所の判断)抜粋

  • 補助参加人らによる本件切断等の意図は、住基ネットへの接続による国立市の経済的負担を免れることにはなく、住基ネットへの接続そのものに問題がありこれを拒否しようとする独自の政策判断に基づくものであったと認められるが、反倫理的な行為とまでいうことはできず、公序良俗に反するものではないので、その判断の結果として、住基ネットへの接続を継続した場合に要したであろう支出を本件切断等により免れたことに変わりはないから、損益相殺の成否の判断に当たり、その負担を免れることとなった原因行為の意図や目的が影響を及ぼすとは解されない。(中略)…損害賠償の損害の有無は、(中略)…、経済的価値を客観的に評価して判断するのが相当であり、違法性の判断とは別に検討されるべきであって、その理は損益相殺の場面でも同様である。(中略)…本件不接続期間中の費用の支出を免れたという関係にあれば、相当因果関係があると認められ、損害の算定に当たって両者間で補填を認めるのが相当である。

こうした裁判所の判断の結果「損益相殺」をすることにし、実際にやってみたら国立市には損害が出ていない。なので損害賠償請求には理由がないから棄却するーーというのが今回の高裁判決でした。

とてもとても遠回しの、「自治の尊重」

上記引用部分の「論理構成」を、わかりやすく整理することはできるだろうか? 少し試みてみます。

  1. 切断等の意図は、公序良俗に反するものではないので、
  2. 支出を本件切断等により免れたことに変わりはないから、
  3. 損益相殺の成否に原因行為の意図や目的が影響を及ぼすとは解されない。
  1. 損害の有無は、
  2. 違法性の判断とは別に検討されるべきであって、
  3. 損害の算定に当たって両者間で補填*1を認めるのが相当である。

少しも整理されたような気がしない。地域の住民にとってこのあたりの裁判所の言説は、論理的にではなく、単に「(切断は)公序良俗に反するものではない」という感覚的なメッセージとして受け止めるほかないでしょう。つまり私たちにはこの判決を、とてもとても遠回しの「自治の尊重」と了解するほかなさそうなのです。

  • *1:「両者間で補填」とは、
  • ○再接続のために支出しなければならなくなった金額(損失)と、
  • ○切断によって支出を免れた金額(利益)の
  • 比較(損益相殺)のこと。

大学通り景観裁判における、(佐藤元市長は)「信義則違反」だとした判決

この「遠回しの自治の尊重」ということでは、同じ国立市住民を原告として住基ネット裁判に先行して開始されていた「国立大学通り景観裁判」(もうひとつの国立住基ネット裁判)の東京地裁判決(2014年9月25日)は、はるかにストレートな言葉で「自治を尊重」しているのかもしれません。そこで指摘されているのは、佐藤(現)市長が、国立市議会の求償権放棄決議を実行しないのは、市議会に対する「信義則違反」だ−−というものでした。同判決(要旨)から、末尾部分を少し長く引用します。

  • ……国立市長は、本件放棄議決に異議があるのであれば、地方自治法176条1項に基づき、議決の日から10日以内に理由を示してこれを再議(既に議決した事項を同一の期間において再び審議すること)に付することができたし、また、本件放棄議決が議会の権限を超え又は法令等に違反すると認めたのであれば、同条4項に基づき、理由を示してこれを再議に付し、仮にそれによる議会の議決がなおその権限を超え又は法令等に違反すると認めるときには、同条5項に基づき、東京都知事に対して審査を申し立てることができたにもかかわらず、上記のような同条に基づく手続をとらなかった。
  • そうすると、国立市長が、地方自治法176条に基づいて本件放棄議決を再議に付する手続を取っていないにもかかわらず、被告上原に対する本件求償権の放棄の意思表示をしないことは、普通地方公共団体の長としての権限を濫用するものといわざるを得ず、原告国立市が被告上原に対して本件求償権するこを行使とは、信義則に反するものとして許されないというべきである。
  • (3)結論
  • よって、前提となる被告上原の明和地所に対する違法行為の有無や、被告上原の故意又は重過失等について判断するまでもなく、原告国立市の被告上原に対する本件求償権に基づく請求は理由がないから、これを棄却することとする。(⇒判決要旨

「違法行為の有無」や「故意又は重過失」について「判断するまでもなく」、国立市の「請求には理由がない」としているところが、この判決のポイントです。請求を棄却する理由として唯一「信義則に反する」ことが挙げられている。つまり、「地域社会の自治で決着がついてるのだから、司法が介入することじゃないぜ」というわけ。

自治体独自の政策の「自治的正当性」と、国の法制度における「違法性」

再接続経費裁判高裁判決に戻ります。

景観裁判地裁判決の「信義則違反」の考え方は、再接続経費裁判の高裁判決における「国立市独自の政策判断に基づく」行為は「反倫理的な行為とまでいうことはできず、公序良俗に反するものでは」なかった−−とする判断と共鳴しているように見えます。どれほどわかりにくい文脈で書かれた判決であっても、それは「切断の違法性」とは別に判断すると語っているわけです。

「自治の尊重(地方自治法1条の2第2項)はどこへ行った?」で指摘したように、

  • 国は、…(中略)地方公共団体に関する制度の策定及び施策の実施に当たつて、地方公共団体の自主性及び自立性が十分に発揮されるようにしなければならない。(地方自治法1条の2 第2項)

住基台帳法の住基ネット条項とその関連規則類は、そのような法制度としての策定に失敗しており、同様に施策の実施においても中央政府は失敗していた。その結果として、こうした「反倫理的」でも「公序良俗に反するもの」でもない「独自の政策判断に基づく」自治体の政策が「違法性」を持ってしまう。だから司法は現在、なんとかして地方自治法の規定の枠内にまで、市町村の「自治」を「救済」しようとしているのではないのだろうか?

むろん、大学通り景観裁判は現在控訴中であり、再接続経費裁判も上告の可能性が残っている。だから、こうした「司法の傾向」は逆転するかもしれないのですが。(⇒以下「東京高裁判決 その2」へ)

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