#37 by ritsuo / 2014.12.16
おじさんたち訴訟レポート

住基ネットの評価は0点:東京高裁判決(その2)

ともかく、東京地裁も東京高裁も、おじさんたち原告地域住民の主張を退ける判断として、「損益相殺をすると、国立市に損害はなかった」としました。両判決に共通するポイントは、まず「人件費」を損害額に含めなかったこと、そして、本来の住基ネット導入の目的だった「行政事務効率化の効果」をシカトしてることです。

高裁判決直後に前・元市長の側から、「これまで住基ネットが費用対効果より市民にとってリスクが高いと主張」してきたのだけど、「費用対効果の点では、それが検証できた事例となったのではないか」というコメントが出ていましたが、その意味はおそらく、

  住基ネットには見るべき「導入効果」がない

ということなのです。

切断で住基ネット導入効果が失われても、原告住民は気づかなかった

「国立市の損害」としておじさんたち原告住民から指摘されたのは、切断中の住民異動情報を記録する(これは再接続時の備え)ために必要な「サーポート委託料」と、再接続のために必要になった「機器更新再接続のための委託料*1」、そして一緒に行われた、システム更新と再接続の作業のために、専任として配置した3人の職員の人件費*2でした。

  • 注*1:おじさんたちが「再接続の経費」とした支出には、明らかに、「リース切れに伴う住基ネット関連システム更新」のための費用が含まれていて、これは切断とは関係ない経費であることを、元市長前市長側が指摘していた。地裁判決はこの指摘を無視したが、高裁判決はその可能性に注目して「機器更新に係るものを区別し特定することは困難」であるため、おじさんたちの主張では「国立市の被った損害(再接続経費)」の額が特定できていないと判断している。
  • 注*2:高裁判決はこの人件費については、かなり明確に「損害が立証されていないといわざるを得ない」と判断している。また、「人件費が職員ごとでなく、業務ごとに計算されていたこともうかがわれない。そうすると、本件専任職員が本件再接続に係る業務に従事したことをもって国立市が被った損害を認定することは困難」で、いずれにしてもこの人件費は切断の有無に関わらず支出されていたと判断している。

おじさんたち原告は、住基ネットの法的な目的である「行政事務の効率化」による行政経費節減効果(国立市の利益)などに気づいていなかったようです。あるいは気づいていても、それが「国立市の利益」なっていなかった(だから切断してもこの店で損害は出ない)ので、無視したのでしょうか。

いずれにしても、上の中のように、「人件費」と「再接続経費」という「国立市の被った損害額」を算定できていないのです。そして「国立市の行政経費節減効果による利益の喪失」も無視されています。これらが法廷で認定されなければ、損害賠償請求自体が成り立たないとも言えるわけですが、高裁判決では、おじさんたちの主張する(過剰な部分を含む)「損害額」でも損益相殺をすると国立市は「切断による損害」を被ってはいないという判断なので、それ以上の「損害額の認定」について言及はしていません。

住基ネット導入効果は、市町村の負担の拡大になっている

実際問題として、住基ネット導入による行政事務の効率化は、ほとんどありません。というか、市町村の支出ということではむしろ増加し、住基ネットによって行政事務は逆に「非効率化」されているという調査報告もあります*3

  • 注*3住基ネット自治体経費調査レポート
  • 所沢市(人口30万人規模・埼玉県)および檜原村(人口3000人規模・東京都)の住基ネット経費を5年間に渡り調査し分析した結果が報告されている。この2つの報告が強調していることは、人口規模がかなり大きくならないと、住基ネットは市町村の財政負担を拡大していることでした。これは人口30万人規模の所沢市でも顕著に見られることですが、大規模自治体の調査がされていないため、どの程度の規模になれば「住基ネットの法的な目的(行政事務の効率化)」が実現されるのかは明らかではありません。そして、日本人の大部分は、人口30万人規模以下の、中小規模自治体の住民なのです。

すると、今回の一連のくにたち住基ネット裁判で、原告おじさんたちが、「切断によって国立市が被った損害」にこの「住基ネット導入による行政の(負の)効率化」をしっかりと調査し考慮していたなら、提訴を断念していた可能性はかなり大きかったでしょう。

切断することで「住基ネットの法的目的」が実現される

今回の高裁判決によれば、「切断によって経費の支払いを免れた金額(利益)」は、「再接続のために支払った経費(損害)」よりも大きく国立市に利益をもたらしているのですが、これは単なる「損益相殺」という経済的な手続きということにとどまっていません。

こうした司法判断には、「住基ネットの法的目的(行政事務の効率化)」を実現するためにはむしろ、切断した方がいいという現実が隠れているわけです*4。 (⇒以下「東京高裁判決 その3」へ)

  • 注*4:2005年2月、与那原町(沖縄)行政改革推進委員会が答申した町の緊急財政健全化計画に「一時的な住基ネット切断による経費削減」が盛り込まれていたことは象徴的だ。
  • 琉球新報記事
  • 与那原町緊急財政再建計画
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